野菊の行方
ある老婦人が亡くなって、あとには可愛がっていた猫が残された。
誰か引きとって面倒を見続けてくれないかしら。という話を
ちょいちょい耳にする。きつねが死んだら、この庭の野草は
残らず引っこ抜かれて、ゴミ収集車に放り込まれる運命なのか。
あいにく親族にはその気のある奴はいないし。・・・どうしたものか。
ノコンギク
7月10日 但しこの花色はフェイクっぽい。幼い頃に見た、
ノコンギクは青かった。(キツネの頭の中では)・・・
じっさい、白の花弁の中に、わずかばかり細い青い糸が織り込まれている
ように見える。ほんとに。人間の目はカメラよりも性能が良いので、
うすーい青にも見えるが、カメラの目には白としか映らないらしい。
そこで、iPadのペンで空色の糸を描き込んでみた次第。
最近は白い種類しか残っていないんだろうか。それとも土の質に
よるものか。生きているいまのうちに養子に出したいものだが・・・
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ヒメジョンとホタルブクロ
6月 ヒメジョン(ひめじおん)は桃色に輝く。白の花弁の中に、無数の細かい
紅い砂粒が散らばって、美しい。洋花のような派手さは全く無くて、道端に
落とした真珠のようだ。ホタルブクロもまた、ごく薄い紅を佩いており、
真っ白ではない。
菊科の秋草2種
ヒヨドリバナは、(一見そうは見えないが)菊科で、数種類の日本固有種の
他、500余の種がアメリカや中国などアジアにも多数住み着いているらしい。
この辺りでは見かけなかったのに、ある年突然、2種類が同時に生えてきた。
上の写真は枝の赤色が美しいが、花つきはまばらだ。これもヒヨドリバナ
だそうで、花期は夏も真っ盛り。まだヒヨドリは訪れていないのに。
(7月中旬)
ヨメナの花に止まっているのは多分ヤマトシジミ。
では、その右側の葉先で休んでいる、影のような透明の蝶はなんだろう?
ヨメナはほんとに可愛い。いつもこんなふうに、雑草の陰から
のぞいている。
昔親父が、若い頃の結核が再発して、国立病院へ入院しており、
キツネは免疫があったため、ちょいちょい通ったことがあった。
当時は職員労働争議の真っ最中であり、一方娯楽室は競輪、競馬の
電話取引に夢中の患者で大いに賑わっていた。中には大金をこっそり
ベッドの敷布団の裏に隠し持っていた地元の爺さんもいたとか。
長期入院患者のお婆さんが、びっくりするほど大量の漢方薬の包みを
広げて医者と相談している。・・
各病室の窓は大きな中庭に面しており、春には皆、桜の開花を楽しみに
していた。そして蕾がほころびかける頃、ウソの大群がやってきて、
花びらをムシャムシャと食ってしまう。皆は手当たり次第の道具をバンバン!
と鳴らして追っ払う。病室というものは必ず1箇所に窓があって、外の
四季が感じられるように作ってあるべきだ。「最後の一葉」(O・ヘンリー作)
のように。そうでなければ刑務所の懲罰房と同じ。近頃、この手の建設会社
が経営まで司ってる病院を見かけた。そういうところは必ずメシが不味い。
母は晩年に、身体中が衰弱して、とにかく入院させられていたのだが、
(こういう場合はとりあえず点滴治療というわけで、最後には100kgはあったに
ちがいない。退院の時期について主治医と話がしたいと思い、患者運搬車椅子
係のお姉さんに取り次ぎを頼んだら、「そんな、滅相もない。恐れ多い」とて、
断られた。今時「恐れ多い」にもびっくりだが、彼女の表情は、
むしろ誇らしげに患者と患者家族を見下している。・・ように見えた。
キツネは院長にきいてみた。「なぜここまでふくらませる必要が
あったのか」と。彼曰く「お預かりした患者さんを干物にして返す
わけにはいかない」
アジノヒモノだろうが、巨大スイカだろうが、人の終末は、暗いベッドの上で
そんな風に終わる。「お金が無いんなら、6人部屋にすればいいのに」という
若い医者。これが高額な仮想現実付き差額ベッドなら、幻の湖や草原の
仮想風景の中、天国からやってきたお父さん、お母さんが傍で導いてくれる
・・てな具合になるんだろうかねー。
一部の専門病院では、一種の「ボケ老人囲い込み」が盛んになってきているんじゃ
なかろうか。色々訳ありなのは知っている。末端で働く介護要員の給料は
一般サラリーマンよりずっと安く、要するに病院経営をやっと成り立たせている
人材であるらしい。
一方で良い家庭医にめぐり会って、これらの専門医の間を取り持ってもらえるならば、
最高の幸せというものだろう。キツネ自身もその1人なので、心より感謝している。
金水引(キンミズヒキ)
むかしアキノキリンソウが生えていた草原に、今はキンミズヒキが
取って代わっている。黄色い花穂の風情はよく似ているものの、
ひっつき虫(種)がものすごい。
野菊の墓(伊藤左千夫の小説)の野菊はどれだろう、とキツネは思った。
それで、数々の翻案映画を調べたところ、周囲に菊の植えられた墓
そのものの映像には行き当たらなかった。千葉県にある「野菊の墓
記念碑」によると日本野菊とは、数種ののぎくの総称で、たとえば
ノコンギク、ヨメナ、など・・とある。
途中の橋の欄干に、白い菊花模様が彫り抜かれているが、どうみても
ノコンギクだ。リュウノウギクの葉とはちがう。1955年の松竹映画
(木下恵介監督)の宣伝ビラにはリュウノウギクらしい花畑が描かれていた
が、しかし11月も末に咲くリュウノウギクは5月の葬儀に間に合わなかった
のか。だからキツネさん、余計な詮索は無用。主役は美しい女優さんで、
野菊にはあらず。今は、「菊に似た野草」は野にも空き地にも姿がない。
そればかりか人の夢想の中にさえ、存在しない。全て除草剤の餌食になって
しまったらしい。
9月 ギボウシの種の竿に泊まった小さなバッタ。
ショウリヨウバッタの子供らしいが、それが一夜明けても同じ場所に居る。
ピンと竿を弾いたら、慌ててにげた。昨夜は台風13号のため大雨が降ったのに。
そういえば去年も、同じ竿に、アゲハの雄が長いこと止まって吸水?していた。
この見晴らし台から何か見えるの?
オイラの名前はヌスビトハギ。
ただの物干し用ベランダも、軽井沢っぽくなるでしょ?
え?みっともないから、早く刈り取れって?
10月1日 朝からヒヨドリが
カラスを警戒して騒ぎ回っている。独居老人はそれを聴いて、
ハハン、今日はごみ収集の日だな、と気がつく。
軒下のオオヒヨドリバナはと見れば、まだ五分咲きながら
猛暑の夏にもめげず、元気いっぱい。
朝9時・・・
ちょっと日陰で、ノコンギクが青く見えたものですから、
30%ほど編集をかけてみました。
気温が高すぎると、白く咲いてしまうのかなー?
10月生まれのウサギさん
おめでとう!
ワレモコウ
どこから来たのか?いつの間にか、庭の暗がりに生えてきた。
「土が欲しい、土さえあれば野草はやって来る」
とキツネには聞こえた。
今年の夏は猛烈に暑かった。水やりは欠かさなかったのに、
一茎しか花が咲かず、葉っぱが茶色くなってしまったオオバギボウシ。
上からのしかかるように、アカマンマが踊っているようだ。
下の写真は大ヒヨドリバナで、軒下のプランターで2m近くにもなった。
これから地球温暖化が進めば、野草も勝ち組と負け組に分かれ、
ギボウシもリュウノウギクも姿を消すだろうな。
ワレモコウはバラ科の花だ。「ワレモ薔薇」と言うところか。
地味な花に比べて、葉がうつくしい。とくに春の芽出しは見ものだ。
幾重にも重なった若葉が縮れてそのまま土を持ち上げたところは。
この写真でも、茎の緑が花の濃い薔薇色を引き立てている。
ホソバアキノノゲシ
アレエ、去年の写真じゃんか。そうそう。
今年もよく伸びて、花が・・と思ったら、
それはセ・イ・タ・カ・アワダチ・ソウだった。
アキノノゲシは菊科の1年草・・つまり1年で枯れてしまう
ので、同じ鉢に、姿がそっくりのアワダチソウが、澄まして
入れ替わっていても、素人園芸家の狐どんは気がつかなくてさ。
タネを採っといて、別の鉢に播いとけばよかったなー。
もう2度とホソバアキノノゲシに会うこともないだろう。
最初は側溝の泥の中だった。残念無念。
リュウノウギクがやっと咲いた。11月11日ーー
今年の酷暑の夏は、野菊の葉を枯れ上らせた。
栽培菊だと、スダレでもかけて日陰を作ってやるところ。
一方右下の小ぶりの菊は全く同じリュウノウギクだが、
他の野草の陰に隠れて、枯れ上りもせず、同じ日に咲いた。
日当たり良く、涼しい夏は、もう東京には来ないかも。
今年はツバキの毛虫(アメリカシロヒトリ?)が1匹も見当たらない、
変な春だった。食欲旺盛な青いシャクトリも、いつもよりずっと
少なかった。ということは、蛾も蝶もこの辺を素通りしてしまうのか。
そう言えば、ノラネコもとんと見かけなくなった。
テレビには、広大なネモフィラ園の写真が写っている。何十万株とかの
ぱっちりと原色の、「日光大好き」属の花が「人を癒やして」いるそうな。
丘という丘を丸坊主にして、芝桜やコスモスで塗りつぶし、観光客を呼ぶ、
「村おこし」もいい加減にしなはれや!
ただでさえ、秋草の住処の土手も、涼しい風の吹く夏も、虫も鳥も姿を
消したというのに。
秋の食卓に、せめて庭先のリュウノウギクを。
でなければ鶏頭でもノコンギクでも。
日本の秋の草花を、花壇の隅に置いてやってください。
キツネ拝