菊と学者
🦊: 菊と学者・・菊とは、この場合は皇室のことでは無い。
戦前の「国体」のことでもない。「地球そのもの」「生きものの
生まれ、育つ場所」のことだ。
そこには動物同士の共生と戦いがあり、植物同士にさえも何らかの
対話や作戦があると言われる。それを言う、賢いはずの人間が、
案外ノータリンな生き物で、キチガイじみた縄張り争いに明け暮れて
いるのはどうした訳か。
科学者というのは、大体がIQの高い、訳知りの「おとな」であり、
知恵者だと思われているが、実はそうでもない。
で、「ニセ賢者」=科学者のこと。
11月7日 朝日新聞 「無人兵器 戦争は変わった」より
🛑 ・・ウクライナでは、空中だけでなく、無人車両や、水中・水上無人機も
実戦投入された。無人機の軍事利用に詳しい古谷知之・慶應大学教授は、
「これまでと次元が違う。陸海空の各戦域で、新興技術を駆使した無人機が
使われ、海での戦い方も変えている」と指摘する。日本政府は9年ぶりに
改訂する国家安全保障戦略で、「戦い方」の変化を踏まえ、「敵基地攻撃
能力」に並び 、無人兵器の導入に踏み切る方針だ。・・無人機が「戦場」
で積極活用される背景には、何があるのか。無人機と人工知能(AI)を
組み合わせ、人間の意志を介さない「自律型致死兵器システム(LAWS)」
も登場するなど無人機活用には、倫理の問題を避けて通れない。
(編集委員・佐藤武嗣)
「安保の行方」より
🛑 今年、ロシアが侵攻したウクライナの戦場では、複数の
海外製無人機が飛び交う、本格的な「ドローン戦」に発展した。
ウクライナ軍は、米国製やトルコ製、ラトビア製などの無人機を
攻撃に活用。ロシア軍の戦車や補給線などを攻撃し、形勢を
押し戻す一翼を担った。(日本)防衛省幹部は、「無人機は戦争の
形態を変えた。ウクライナで確信した」と話す。
(海外製無人機に頼っている日本の無人機開発、実用化の出遅れを
自覚する)防衛省は、「実戦経験のある」(同省幹部)外国製無人機
を先行導入し、運用や効果を研究する方針に切り替えた。候補には
イスラエル製「ハロップ」や米国製「スイッチ・ブレード」などが
ある。・・
無人機導入を急ぐ防衛省の念頭にあるのは中国だ。中国は8月の
ペロシ米下院議長の訪台後、中台「中間線」を越え、無人機の
台湾側制空域への侵入を常態化させた。日本周辺でも8月には
偵察・攻撃型無人機が沖縄本島と宮古島間を通り、東シナ海
と太平洋を往復した。中国は複数の無人機を同時に飛ばし、
群れで攻撃する「群衆無人機」の開発にも力をいれる。・・
米国や中国、イスラエルなどがこぞって無人機の開発、配備に
しのぎを削るのには理由がある。戦闘機などと比べ安価で、
敵の対空砲火や放射能による汚染地域でも隊員の命を危険に
晒さずに相手陣地の偵察や攻撃が可能となるからだ。
自衛隊幹部も「いかに死傷者を出さないかが重要。
戦略の幅も広がる」と語る。・・
人間の意志を介さず、AI(人工知能)で目標を探し、自ら攻撃を
判断する「自律型致死兵器システム(LAWS)型無人機も登場している。
国際的にLAWSを含む攻撃型無人機の運用ルールや倫理規範は、
定まっていないのが現状だ。「科学者はなぜ軍事研究に手を
染めてはいけないか」の著書がある池内了・名古屋大学教授
(宇宙物理学)は「無人機なら有人機より倫理的な武器だという
人もいるが、アフガニスタンで多数の市民を誤爆し、非戦闘員
を殺傷してきた歴史がある」と指摘。将来は「条件を自ら判断
して攻撃する本物のAI兵器が生まれる」と警鐘を鳴らす。
政府はLAWS について「開発を行う意図は無い」との立場だ。
無人機に「人間の関与を確保する」とした。一方で、「他国による
LAWSを用いた攻撃に対する対抗手段についても検討する」とした。
「国際ルールを無視する中国を相手に日本だけが「倫理」に縛られる
わけにはいかない」と語る防衛省幹部もいる。・・
無人機の運用ルールや倫理をめぐる国際的な議論は、宙に浮いた
ままだ。(編集委員・土居貴輝、佐藤武嗣、成沢解語)
ーーなぜ科学者は軍事研究に手を染めてはいけないかーー
池内了著 2019年 ・みすず書房刊
🦊: この本は著作権で厳重に保護されているらしいので、
キツネの読書感想文として紹介する。(年金生活者の身
では、新刊本には手が出ず、アマゾンの中古本に
もっぱら頼っている。が、安すぎるし、送料無料というのも
どうかと思うが、居ながらにして古本が手に入るのは
有難い)
さて、2019年における著者の「世界認識」はこうだ。
🛑 「世界は、小国間や反体制勢力との国内での紛争や
衝突というレベルでの争いは続いているが、全体としては
権益や領土を奪い合う戦争という事態に訴えることはなくなっ
ている。いかにも暴力的な世の中が続いているかのような
雰囲気はあるが、世界は戦争を止揚して平和になっている
のである」と。
🦊: これは冷戦終結後のアメリカの「油断」、例えばブッシュ
政権は、ロシアは完全にパクス・アメリカーナの下に消滅した
かのように、ロシアとの対話を冷たく拒否したと言うが(「今は
平和だ。軍事同盟など必要もないし、対話で物事を解決する
時代だ、」と言って、西欧の一員に加わりたいロシアの願いを
蹴飛ばした)まだその「油断」の中にあるようだ。だが3年後の
2022年の今、世界が平和であるとは誰も言わないだろう。
そして
🛑 「このような世界の趨勢に反抗しているのが、軍事複合体と
その背後に控える軍事研究を行う科学者たちで、宇宙核兵器、
サイバー・電磁パルス弾、AI兵器、ゲノム編集など新たな兵器の
考案に余念がない。倫理的な思考を捨てた科学者は、世界史の
方向が見えない存在に堕している」という。
🦊: その通りと言いたいところだが、今や「世界史の方向」は
大袈裟に言えばハルマゲドンに向かっているようだ。歴史上の
2つのこと、エネルギーの「無制限解放」と原爆・水爆の開発では、
紛れもなく科学者が主役だった。どちらも、科学者で「賢人」で
あるならば、その結果を予測出来たはずだ。彼らは実験段階から、
生まれ出てくる「赤子」の恐ろしい性質を知っており、その
凄まじい閃光に、神の劫罰、またはハルマゲドンを想像して怯えた
者もいるという。だが、大方は己の技術と頭脳に溺れてあるいは
金や名声と「引き換えに」魂を売った。彼らも人間であるからには、
間違いも仕方のないこととは言え、いまだに間違いを認めようとは
せず、兵器産業を盛り立てているらしい。「死の職人軍需産業」の
裏で糸を引いているのが「死の商人・帝国主義国家」」であり、その
筆頭がアメリカであるとキツネは思っている。
ところで、筆者の主な論点は「研究者の倫理観」と「若い学生への
倫理教育」にある。
p4 「日本の場合」より
🛑 「日本においても、科学に関わる本において、軍事研究に関わる
ことは科学者倫理に反すると明確に書いてあるものはまだ無く、
おそらく当分現れないだろう。その理由として日本には恐るべき
特殊事情があった。日本の大学を始めとする「学」セクターは、
戦争前および戦時中、国家や軍の意向ばかりを尊重して、世界の
平和や人々の幸福のための学問という原点を見失っていた。
敗戦後、そのような科学者集団であったことを反省して、
日本学術会議は1950年に「戦争を目的とする研究には絶対
従わない」という声明を決議した。・・これは日本国憲法
の平和主義精神に則った決意表明で、おそらく、1947年に
軍を持たないことを決議して、今なお軍事予算ゼロを貫いて
いるコスタリカを除いて、こんな国は無かっただろう」
p212 「自衛隊の行き着くところ」より
🛑 「科学者がよく口にする自衛論は、敵が攻め込んできた時
家族が犠牲になって殺されるのは嫌だから、敵の侵入に対する
自衛のための武装が必要で、そのための軍事研究を行うべきと
いう意見である。その最も古典的で素朴な意見が、近代的な
武器さえ備えていれば、それが抑止力となって敵が攻めて
来なくなるという者だ。いわばハリネズミ作戦である。
しかし、現代は他国に一方的に侵略し暴虐のかぎりを尽くす
無法な時代ではない。そんなことをすれば、国際的な強い批判
を受け、経済制裁を課せられて、国として立ち行かなくなる。
さまざまな形で国同士が経済的・社会的・政治的・学術的に
つながっており、軍事力で敵とみなす国を屈服させる時代は
終わったのである。だから、そもそも専守防衛のための軍事力の
増強は無意味なのである」。
🦊: アニハカランヤ(予想もしなかったことだが)「軍事力で敵を
屈服させる時代」はまだ終わっていなかった!
ロシアによるウクライナ侵攻が突如として始まり、旧ソ連製戦車
や昔ながらの塹壕戦、かと思えば、上空を飛ぶドローンから映し
出された塹壕内の兵士の姿、はるか彼方から飛んでくるミサイル
(最近の話題では、素手で塹壕を掘るロシア兵・・)などなど、
一体これが現代かという光景がNET経由で報道された。
ウクライナの軍備丸腰状態を見た日本政府は慌てた。「そら見た
ことか(だから言ったじゃないか)、『専守防衛』なんて言ってる
間に、空から敵のミサイルが撃ち込まれ、海からも核爆弾が飛んで
くる。こちらも攻撃型軍備を備えなければ、国が滅びる!」という
わけで、軍事予算拡張に取りかかった。
筆者は続ける。
🛑「もし、『危険なならず者国家』(例えば北朝鮮)があると考えるなら、
進んで交渉や話し合いをもって他国との間に存在する確執を解消する
努力をすべきなのだ。ミサイルを飛ばす危険な国だと悪罵を投げつけ、
自ら軍拡に励むのは全く逆行した行動と言える」と。
🦊: まったくそうありたいと、キツネも心の底では思っている。しかし
交渉や話し合い、名誉や規律が成り立った「紳士の」世界秩序は、
現実にはどこにもみあたらない。あえて言えば、「軍事力で敵を
屈服させる無法な国家」の筆頭は米国であり、正義を装ってはいる
が、内心はとても「紳士的」とは言いかねる。なぜなら暴力を奨め、
戦争を拡大させ、その利得を窮乏国にばら撒き、「世界を平和に
導く」フリをしているから。
しかし、米国のバラマキ作戦も限界にきた。グローバルな流通網の
破壊により、エネルギーと食糧の不足が世界中に広がり、戦勝より
如何にして世界中が飢え死にせずに済むか、という話になってきたが、
人間は古来戦争でケリをつける動物らしく、一向に対話は始まらない。
どないしたらええねん!と気を揉むばかり。
ところでこの本のテーマである「戦争と科学者」、特に日本政府と
の関係について詳しく分析されているので是非読んでください。
11月12日