戦争とロジスティクス


戦争とロジスティクスーー石津朋之  著

日本経済新聞出版     2024年   p

🦊  第二次世界大戦における日本軍の所業を、「よその国もやってた」からと

正当化する、あるいは無かったことにしたい、そういう学者や政治家が

今だに居るということが、信じがたい。そこで、改めてこの本によって、

第二次世界大戦と戦時ロジスティクスの関係を学び直してみたい。

p53  「略奪戦争の時代」

イスラエルの歴史家マーチン・クレフェルトの主著「増補新版  補給戦」に

よれば、中世ヨーロッパ世界の戦争では、基本的に侵攻した地域を「略奪」する

ことによってのみ軍隊は維持され得た。だが、略奪を基礎とする中世の軍事

ロジスティクスのありかたは、フランス革命以後、19世紀ヨーロッパの

「新たな戦争」を賄うには問題が多すぎた。この時期、現地調達を徹底する

ことによって戦いの規模と範囲を劇的に変えたナポレオンの戦争でさえ、

(🦊  当ブログのどこかに書いたが、ナポレオンがエルバ島を脱出して

パリへと行軍した時に通過したアルプス沿いの村々は、のちにナポレオン街道

と呼んで、観光名所となっているが、実はナポレオンを歓迎しなかった。

なぜなら、それは略奪街道であり、通過地点の村々は酷い目にあったからだ。

ナポレオン軍は、兵士の食糧、装備、果ては鉄砲の弾に至るまで現地調達に

徹し、猛スピードで進んだ。市長は市の鍵を差し出して、何とか手加減して

くれるよう、歓迎のフリをしたのではなかろうか)ヨーロッパ中世のロジスティクス

の問題は、必要な物質を「略奪」することで解決が図られた。

その後、こうした略奪の歴史が第一次世界大戦を契機として消滅したのは、戦争が

突如として「人道的」なものに変化したからではない。クレフェルトによれば、

戦争での物資の消費量が膨大になった結果、もはや軍隊はその所要を現地調達

あるいは徴発することが不可能になったからである。また当時の軍隊の特徴として、

第一に、糧食を得るために常に移動し続けることが必要絶対条件であり、

第二に、ロジステイクスのための基地との関係をあまり考える必要が無かったこと、

第三に、物資運搬のための河川を支配することが必須の時代で、補給物資を陸路で

運搬する必要があまり無かったことが挙げられる・・

「17世紀ヨーロッパの軍隊は、地上を侵食しながら進んでゆく[ウジ虫]のような

存在であった。後には、飢餓と破壊という足跡が残された」のである。(リチャード・

ホームズ、ジョン・キーガン、ジョン・ガウ[戦いの世界史ー~1万年の軍人たち]

大木毅  監訳、2014年  原書房)


p58   プロイセンーードイツ鉄道の登場

クレフェルトの指摘によれば、普仏戦争においてプロイセン軍が勝利したのは、

鉄道の役割が大きかったためではなく、実際に鉄道が重要な役割を果たしたのは、

当初の兵力展開の際だけであり、ロジスティクスの面では、プロイセン軍が用いた

弾薬は、当初から大部分が携行されており、作戦での消費量が極めて少なかったから、

結局のところ、フランスがヨーロッパで最も豊かな農業国であり、戦争が最も条件の

良い時期に開始されたからこそ実現可能になったと言える。

もちろんその一方で、戦争に将来の方向性を示したものが鉄道であり、従来の城壁

あるいは城砦では無かったことも事実であろう。


p103     ノルマンディーへの道ー~事前の周到な計画と準備

この上陸作戦を成功に導いた様々な要因について考えてみよう。

技術力ーーノルマンディー上陸作戦に際して連合軍は、兵器はもとより、弾薬や車輌

などの必要数を細かく計算し、これらを集積、さらにはこれらを目的地まで輸送する

ための大規模なシステムを作り上げることに成功した。まさに、[システムエンジニアリング]

の勝利であった。

また、オペレーションズリサーチの手法が上陸作戦計画の 立案に用いられたという。

また、通常型の戦車が海岸では全く使えないとの苦い経験から、イギリス陸軍のパーシー・

ホバートにより水陸両用戦車、地雷処理戦車、火炎放射戦車などの特殊戦車が開発された。



ロジスティクスーー

15万もの戦力を、海を越えて敵地に上陸させるために必要とされるロジスティクスの側面

の準備の難しさは、容易に想像できるであろう。

当時、兵士一人につき1日当たり爆弾96発、糧食3キロ、水9リットルが必要とされた。

(以下はNHK BS[ノルマンデイ上陸作戦]による) つまり、毎月1トンもの補給物資が必要

であり、また兵士が1メートル進むごとに18名の支援チームが必要であるとされた。

これには、炊事係や衛生係なども含まれている。更に前線の部隊は、200日毎にその

全員を入れ替える必要もあった。こうして結局、計1800万トンもの物資がアメリカから

大西洋を越えて輸送されたとされる。

こうしたロジステイクス面での必要性の結果、ノルマンデイ上陸作戦の実施に祭しては

ドイツ占領下フランスの港湾を占領することに加えて、2つの人工桟橋(マルベリー)の

建造が不可欠とされた。この埠頭は、それぞれ一度に75隻の艦船の接岸が可能であった

とされる。マルベリーは既に上陸作戦の半年前からイギリスで建造が始まっていた。

同国からは輸送船に乗せることなく、曳航して運んだ。


p105   上陸作戦に向けた最終調整

1943年には作戦の実施が決定され、支援部隊を含めて約25万、約7000隻の艦艇が

参加予定であった。そこではこの技術的可能性、戦力を集中させる方策、用いられる

戦略や戦術、ロジスティクスをめぐる問題など、大きな問題が待ち構えていたのである。

例えば、ノルマンディ地方の海は潮の干満の差が大きい。海岸線は長いものの、断崖が

多い。また、同地方には大規模な港湾が存在しない。それでも他の地方と比較検討

された結果、いわば消去法でノルマンディが選ばれた。他の候補地は、潮の流れが更に

激しいか、あるいはドイツ軍の防御が強固であったためである。連合国側はノルマンデイ

の地形などについて小型潜水艦による沿岸調査を行うとともに、航空写真を活用した。

またドイツ軍部隊の動向などについては、フランス国内のレジスタンス組織から

インテリジェンス(情報)を得ていた。加えて、二重スパイの活動も記録されている。

また、ベルリンから東京へと発せられる日本の外交暗号通信、さらには日本陸海軍

の暗号通信の解読にも成功していたため、ここでもドイツ軍の意図は連合国側に筒抜け

であった。(中略)


p108    周到な計画

ノルマンディー上陸作戦に際して連合国軍は、第一に、ドイツ軍が上陸地点を特定

できないよう徹底して策を講じた。(爆撃地点をあちこちに散らして、目標を気取られぬ

ようにした。第二に、上陸作戦に先立って連合国空軍および航空部隊によって実施された

徹底した爆撃。これによって、ドイツ空軍をほぼ無力化することに成功すると共に

鉄道や橋梁など交通システムに対する爆撃の結果、ドイツ軍の予備部隊の移動を困難にし、

最前線へのロジスティクスあるいは補給に打撃を与えたのである。第三に、大規模な戦力

等と大量の物資を数週間にわたって輸送し続けるそのロジスティクス計画、とりわけ

海軍艦艇および輸送船を用いたロジスティクスシステムの充実が挙げられる。これには、

上陸用舟艇などの準備も含まれる。

個人が携行すべき装備は多く、40キロ近い背嚢を背負うことになった。また、実際に

歩兵部隊が上陸用舟艇から降りた所は海中であり、重装備で約500メートルも海中及び

海岸を歩く必要に迫られたのである。

ノルマンディー上陸作戦は、その準備段階から参加した兵士の数や準備された膨大な物資

の量、更には英仏海峡を越えての上陸作戦の構想やその後のフランス解放といった事実を

考え合わせれば、ロジスティクスの側面においては、疑いもなく[地上最大の作戦]だった

のである。


p142   湾岸戦争のロジスティクス

では以下で、1990〜91年の湾岸危機及び湾岸戦争(第一次湾岸戦争)を事例として

ロジスティクスので役割りについてやや詳しく考えてみよう。

実は湾岸戦争は、必ずしも広く唱えられているような軍事技術の勝利であったとは言い

切れず、また、一部の軍人が信じているような権限の移譲が行われた結果ーー自由裁量権

の付与の結果ーー勝利を得たのではない。

なるほどこの戦争で、アメリカを中心とする多国籍軍の圧倒的な軍事的勝利と、そこで

リアルタイムで見せつけられた精密誘導兵器やステルス兵器やの威力などの結果、

その後、『軍事革命』『軍事技術革命』あるいはRMA(Revolution MIritary Affairs)を

巡る論争が巻き起こった。精度、射程、情報の領域における軍事技術の革新は圧倒的で

あるとされ、これによって戦争の様相が大きく変化したと考えられたからである。

だが、ここで少し冷静になって政治的次元として例えば、1️⃣ 国連安保理決議を採択する

など国際社会の中で軍事力行使に対する一定の正当性を得た、2️⃣ アメリカを中心として、

アラブ諸国に働きかけ、この戦争を「中東アラブ世界vs西洋世界」あるいは「イスラム教

vsキリスト教」といった対立構図が成立しないように止めた。3️⃣ソ連(当時)とも頻繁に

交渉し、同国に軍事力行使に対する一定の理解を示させることに成功した。4️⃣戦争勃発後

イスラエルを局外に留める事に成功した。5️⃣ 軍事力行使に際し、明確な目標をかかげ、

イラクへの過度な関与(例えば、サダム・フセイン政権の転覆など)を避けた。6️⃣アメリカ

及びジョージ・H・Wブッシュ(父)同国大統領が示した優れた戦争の指導あるいは

リーダーシップ、7️⃣冷戦終結という国際環境の下でのアメリカとソ連の協調関係の維持

などが前提条件として整っていた。(石津朋之『湾岸戦争のポリテイクス』NIDsコメンタリー

第118号)

こうした恵まれた政治状況の下、軍事の次元で、1️⃣パウエル・ドクトリンに従って、

戦争までの約6ヵ月間、 武器弾薬、糧食などを中東地域に集積するなど必要な準備を整えた。

2️⃣ 兵士の訓練(例えば砂漠の戦場での)を実施し、満足できる熟練度まで達していた、

3️⃣アメリカを中心として、情報技術(IT)革命の成果を軍事力の中心に組み込む事に成功した。

4️⃣同盟国および友好国との連携を密にし、アメリカ軍内の共同作戦及び同盟国との連合作戦

を円滑に実施し得た、などの条件が揃ったのである。(石津朋之ーー『匕首伝説』を考えるーー

NID s コメンタリー第195号)。とりわけ、事前に大量の補給物資を戦場の近くに集中し得た

能力は賞賛に値する。実は、この戦争でさらに興味深い事実は、地上での戦いが約100時間

で終結したのに対し、その前段階の配備に6ヵ月の時間があった事実に加え、後段階の撤退

ーー『砂漠の送別』作戦ーーに10ヵ月を費やした点である。この砂漠の送別作戦では、

兵士はもとより、兵器や機材を戦場となった砂漠地帯から飛行機や港湾に移動させ、

それらを中東からアメリカ本国まで持ち帰ったのである(パゴニスーー山動くーーp225〜

p237)  湾岸戦争で実質的に多国籍軍のロジスティクスを統轄したパゴニスは、以下のような

結論を下している。すなわち、『この戦争は戦場でというより、主要補給ルートにおいて

戦われた。
何ヵ月にも及ぶ後方支援の準備が行われたからこそ、空中と地上での戦闘を

1012時間で終わらせることができたのだ。』


p148   コンテナの有用性

アメリカ軍が民間のコンテナを導入し始めたのは、ベトナム戦争も後半になってから、

この地域に展開された50万以上の同国軍兵士の戦闘と生活を支えるためには、どうして

も効率的なロジスティクスが必要とされたからである。

米国を中心として世界各国の軍隊で補給物資の迅速な配送を可能にするISO(国際基準規格)

コンテナが広く使用され始めたのは1980年代であり、湾岸戦争では広く用いられ、

4万ものISOコンテナが使われたという。だがその半分は内容物がわからず、現地で開梱

して確認作業が必要であったが、イラク戦争では、RFID(Radio Frequency Identification

=無線周波数識別)の導入によってこの問題は解決された。

つまり、湾岸戦争の時には前線まで送られてきた軍事コンテナにも何が入っているのか、

開墾するまで全くわからなかったそうである。水が必要なのに、開けてみたら糧食しか

無かった、違った種類の弾薬が届いたといった事態が生じたらしい。

それが約10年後のイラク戦争(第ニ次湾岸戦争)では、コンテナにRFIDが装着された結果、

何がどこにあるのかがシステム全体的で把握できるようになった。必要な量の補給物資を

必要な場所に送ることができるようになったのであり、こうした技術を無視して今日の

戦争は戦えない。


p150   イラク戦争ーー「軍事ロジステイクスにおける革命」

イラク戦争では、軍事ロジスティクスの外部作戦では外部委託(アウト・ソーシング)が

大きく進んだとされる。その理由の一つは、大量の物資ーーとりわけ現地で調達

できないハイテク装備品などーーを遠く海外へと移送するノウハウに関して、民間企業の

方が優れていたからである。(中略)

その一方で、こうした[ロジステイクス における革命]も、新たな問題を生じさせた。

たとえば、イラク戦争の初期の段階では、地上部隊の進撃速度があまりにも

速かったため、必要な物資を必要なだけ補給するという「ジャストインタイム」

方式ですら、その欠点を暴露することになった。また、この戦争ではアメリカ軍の

死者の3分の2がロジステイクス担当部隊から出ていた。さらに冷戦終結後、

今日の戦争は「テロとの戦い」の様相を呈しており、国家間戦争 を想定して構築された

ロジスティクスの方策が適応し難くなってきている。

更に近年、軍事ロジスティクスの一つのあり方としてシー・ベイシングといった発想が

注目されている。これは、同盟国などの領土内の基地に依存することなく、アメリカ軍

が自由に作戦できる海上基地との考え方であり、2002年に発表された作戦である。

確かに、ロジスティクス基地を海上に設けることができれば、陸上に置く場合とちがって、

ホスト国の承認が不必要な上、安全性も高まるとされる。シーベイシングは、単に海上に

基地を建設するだけでなく、所要の装備及び補給物資を、本国から前線基地や前方に展開

するシー・ベイス(海上基地)に運搬。そこから各種の運搬方法を用いて最前線の艦艇や

陸上部隊に届けるという、正に一体型システムの概念なのである。一般的にロジスティクス

は準備可能な範囲内で戦闘を行うという「兵站支援限界」で規制する方策があり、日本の

防衛省、自衛隊は基本的にこれに従っている。(旧陸海軍はこれと異なる)。だが今後は、

戦闘に必要なロジスティクスをどうにか準備する「作戦追随型」の方策も、求められるで

あろう。より具体的には、倉庫に補給物資を保管し必要に応じてそれを最前線の部隊に

運ぶような従来の方策から、「策源地」にある民間企業から直接最前線の部隊に物資を

運搬する方策への転換である。また、既にコンビニなどで導入されているPOS(Point 

Of Sailes)システムに則った管理により、部隊や兵士個人の糧食や弾薬などの保有量が

低下すると、自動的に最適なロジスティクス拠点に補給の指示が下されるといった

方策の導入も検討されるべきである。いわゆる「オーダーレス」の概念を軍事

ロジスティクスにも導入することが求められる。(以下略)

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🦊  この本では筆者は、旧日本軍のオーダーレスどころかロジスティクスレスの

惨状については、たった1行しか触れていないが、しかし、朝鮮戦争以降、アメリカ軍の

「シーベイス」と化した日本全国の、誰が主権者として開戦を、作戦を、銃後のサイフの

管理を、指導できるか?しかも「独立国日本」として?借家人のアメリカ軍兵士の後から

アメリカ製錦の御旗についてゆく自衛隊員???自衛隊は自衛の為だけ、は偽りか?

昨今の都議会選挙戦には、自衛隊幹部出身の候補者も出ているようだが、彼は「日本人を

元気にしたい」といってるそうな。例の「ほしがりません、勝つまでは」の国民を

「必勝は金次第。勝ち馬に乗ろう、勝つために」の国民精神へ大転換させようという

おつもりか。核爆弾を増強しつつある中国を敵に回す理由をどう説明するのか?

中国は、説得できる国だとキツネは信じている。(ロシアとは違う)。

貧弱な日本の財政は、米国の戦争キチガイ(戦争で儲けたい人々)を支援出来るほど

ゆたかじゃない。喜んで若者を戦争にゆかせるほど人口過多でもない。

何よりも、すべての行政の鍵をアメリカに預けてある(らしい)。

戦後の立役者吉田茂の采配は、当時の日本人に、「今のところそうするしかない」

と、受け入れられた。(キツネもそう思った)。しかし、将来の独立国軍を目指すなら、

アメリカの「シーベイス日本、」をゆるし、それで経済立て直しを計るとは、

今になって解る大失策だ。

もう一つ、、キツネが思うに、ロジスティクスに興味を持つ人たちは、再軍備を


待ち望んでいるんじゃないかなー。新しい戦争、新しい武器にワクワクする。

オーダーレスで、誰が儲けるのか、それはあなたかも知れないが、それでは

戦争は無くならないどころか、「焚き火を消す」智慧さえ持たない幼児のような、

サルの地球人に戻ることになる。(サル君、ごめんね)


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